聞き書き七ヶ浜

聞いてけさいん、話してけさいん。七ヶ浜のいまむかし。

墨の香に癒されて

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宮城のお隣り山形からボランティア活動に来ていた二組のご夫婦がいらっしゃいました。渡部伸さん、美穂子さん、水戸寿也さん、ともみさんです

震災直後から、七ヶ浜に月2回通われること4年6ヶ月。主に仮設住宅集会所で書道を教えるボランティアを行い、被災された方々と交流。2015年の秋に長い支援活動を終えられました。また、きずな工房もオープン当初からご支援いただきました。

3号「手と手」の掲載文から抜粋し、ご紹介いたします。 

 

  震災発生後、被災地の力になりたいと支援活動場所を探していた両ご夫妻。「山形から近く、毎週行ける場所」の条件に合った七ヶ浜に決めて、2011年5月11日にボランティアセンターを訪れました。

「夫と水戸さんの旦那さんは瓦礫撤去の方に、私と水戸さんは写真洗浄をやりました。7月頃、写真の作業がなくなってからは、体育館で物資の仕分けもしました」と美穂子さん。(中略)8月には、仮設住宅集会所のボランティアへ。そのときに水戸さんが投げ掛けられた言葉は「ボランティアさん、俺に家を建ててけろ」。被災した方々との対面は、初めてのことでうろたえたそうです。

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

 2011年の夏は、床屋やマッサージの支援が頻繁に行われていた頃でした。仮設住宅の集会所に大勢のボランティアさんが行き来する中、美穂子さんと、ともみさんは「自分にできること」を模索されていました。

そんな中「写経はどうだろうか?」と思い立った美穂子さん。仮設住宅サポートセンターの職員に提案したところ「お経はイメージが良くない」ということだったので「それなら、お習字はどうですか?」と・・・。道具の心配もされるので「20セット揃えて、持ち寄ります」の言葉で承諾を得たそうです。

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

 

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七ヶ浜中学校仮設住宅集会所で『楽しい書』の講座がスタートしました。(中略)「最初はめげました」と話す美穂子さん。なかなか人が集まらず、呼び込みをしたこともあったそうです。それから、活動場所を第一スポーツ仮設住宅集会所に移動。7~8人来ていましたが、一か月くらいで17~18人になりました。(中略)「笑顔が増えていってね。つながりをもって仲良しになれて楽しそうな姿でしたよ」。

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

書家である渡部さんご夫妻は書の指導を、水戸さんご夫妻は子守などのサポートを。若いママさんたちが連れてきた乳幼児のお世話にまわりました。

支援活動の輪は、山形のご友人にも広がっていきました。一緒に七ヶ浜を訪れた方もいれば、カンパでご協力くださった方も。両ご夫妻の活動に賛同された方々に支えられて『小さな灯の会』を立ち上げました。寄付をいただいた方に毎月会報を届け、被災地の現状を伝え続けました。

 

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2015年11月、長い支援活動を終えるにあたり、その集大成として『小さな灯の会 書展~墨の香に癒されて~』を七ヶ浜国際村で開催。 震災を風化させないという思いもありました。 

 

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主役は集会所の生徒さんたち。準備や受付も自ら行い、会場には個人のものから、皆で協力して製作した大きな作品が展示されました。

 

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開催にあたって、生徒さんたちにこう話されたそうです。「ただ字を書くなら、あなたたちじゃなくていいの。皆、心を込めて、思いを込めて書きましょう」と。その言葉に皆さん、ぼろぼろと涙を流されたそうです。

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

両ご夫妻の活動は書道だけにとどまらず、和装着付けやお茶会、クリスマス会など様々な催しを企画。集会所に集まる皆さんの心を和ませる時間を作ってくれました。そんな中、支援にあたって思い悩む時期もあったと、ともみさんは胸の内を話してくれました。

「辛くて悩んだときもありました。私でいいのかなって、足が重くなって・・・。でも、行こう。足踏みしてたら駄目になる。皆の顔が見たくて。会うとそんな気持ちも忘れるの」

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

 

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 書展の最終日、懇親会を終えた会場には生徒さんたちの明るい声が響き渡っていました。「まさか自分が習字をやるとは思わなかったです」「楽しかったです」と。渡部さんご夫妻から教わった書は、七ヶ浜の愛弟子たちにとって、生きる張りになっているようです。ともみさんは「前に進んでいってほしい。苦しいときに一生懸命習字に打ち込む姿を見てきました。これからも寄り添っていきたい」と結びました。

聞き書き七ヶ浜3号「手と手」より)

書展会場に展示されていた大きな写経。生徒さんたちの写経を貼り合わせた上に、美穂子さんが般若心経をしたため大作です。吉田浜の金剛寺に寄贈され、書院に展示されています。

 

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こちらは、菖蒲田浜海水浴場入口にあった震災モニュメント。ボランティアさんたちの手で建てられました。「祈望の鐘」の書は、伸さんによる書。津波で流された鐘が取り付けられています。現在は少しだけ場所を移動し、ログハウスのカフェ SEA SAW の敷地内にあります。

 

きずな工房でのご支援についても、追ってご紹介させていただきます。