3号目「お社めぐり」から、湊浜の弁天社をご紹介します。
湊浜緑地公園の手前、深川沼に隣接する静かな佇まいのお社です。
深川沼は、江戸時代の初めに藩の政策で川筋が変えられるまで、岩切(仙台市宮城野区)から東に流れて湊浜の入江に注いでいた七北田川の河口の名残だそうです。
その昔、河口は多賀城の国府と都を結ぶ港でもあり、日本武尊が陸奥国に上陸した竹ノ水門(たけのみなと)がここだとも伝わっています。そんな、深川沼に突き出た丘の頂に鎮座しているのが、今回ご紹介する弁天社です。
(聞き書き七ヶ浜3号「お社めぐり」より)
深川沼の南西には、JX日鉱日石エネルギーなどの石油化学コンビナートが立ち並びます。ごつごつとした奇石が島のよう。その昔、入江だった頃の名残を感じますね。
小さくて可愛らしい 鳥居。祀られている弁財天(弁天様)は、水に関わる神様として島や港の入口に多いそうです。
湊浜の弁天社の丘も河口が塞がって入江の小島が陸続きになったらしく、以前は西側の崖の下に牡蠣殻がついていたと、七ヶ浜町史に載っていました。
(中略)最初の長めの階段を上ると10メートルほどは平坦な道で、その先の階段を数段上った境内の入口両側に石灯篭が建っています。しかし、残念なことに建っているのは基礎と竿だけで、笠から上は階段下の両脇に置かれており、お灯明を入れる火袋は見当たりません。
(聞き書き七ヶ浜3号「お社めぐり」より)
木造鋼板葺きで間口が一間ほどと小ぢんまりとしたものですが、この本殿は平成7年1月の火事の後に再築されたもので、昔はもっと大きな瓦葺きの建物でした。狛犬の先にそこだけ横向きに置かれている敷石のところが上がり口だったようです。
(聞き書き七ヶ浜3号「お社めぐり」より)
さて、本殿の扉は閉まっていますが、格子の隙間から中を覗いてみましょう。正面に前幕をさげた棚があって燭台と御幣が供えられています。(中略)震災前にはなかった弁天様の琵琶を抱えた色鮮やかな立像がお祀りされていました。
(聞き書き七ヶ浜3号「お社めぐり」より)
この辺りは、仙台新港の開発で全戸移転した地区で、昔は弁財天の周りにも民家が立ち並んでいましたが、今では一軒も残っていません。木立と藪に囲まれた境内は高台ながら周りは見渡せず、梢に切り取られた空だけがくっきりと見えていました。その上を時折、沼に棲むシラサギが飛び越えていきます。
商いと芸能の神様で、海上安全の守り神でもある弁天様のお社にしては、静かな静かな佇まいです。
(聞き書き七ヶ浜3号「お社めぐり」より)
皆さんも機会があったら、一度お参りしてみてください。